猫を飼うということは長期旅行を諦めるということ

ふわふわの毛並みに癒され、愛らしい仕草に心を奪われる猫との暮らし。しかし、その幸せな日々と引き換えに、私たちが手放さなければならないものがあります。

それは、気ままに出かけられる自由です。週末の温泉旅行も、友人との海外旅行も、家族との長期帰省も、猫を迎えた瞬間から簡単には実現できなくなるでしょう。

猫は環境の変化を極端に嫌う生き物

犬のように飼い主にどこまでも付いていくタイプとは異なり、猫は自分のテリトリーに強い執着を持っています。慣れ親しんだ部屋の匂い、いつもの窓辺、お気に入りの寝床——これらすべてが猫にとっての「安心」そのものなのです。

旅行先に連れて行こうとキャリーバッグに入れた途端、普段は穏やかな猫が激しく抵抗するのは、単なるわがままではありません。未知の場所への移動は、彼らにとって命の危険を感じるほどのストレスになり得るからです。

環境省の動物愛護管理プロジェクトでも、猫の室内飼育の重要性が強調されています。これは単に安全面だけでなく、猫の習性そのものが屋外での生活に適していないことを示しているのです。

1泊2日が限界ラインという現実

「ちょっとした旅行なら大丈夫だろう」と考える方もいるかもしれません。確かに、健康な成猫であれば1泊2日程度の留守番は可能です。ただし、それはあくまで「生存できる」という意味であって、猫が快適に過ごせるわけではないことを理解しておく必要があります。

自動給餌器や給水器を設置し、トイレを清潔に保ち、室温管理を徹底したとしても、飼い主不在の時間は猫にとって不安な時間に変わりありません。

留守番期間 対応可否 注意点
半日~1日 ◎ 問題なし 水と餌を十分に用意すれば対応可能
1泊2日 △ 条件付き可 自動給餌器や室温管理が必須、子猫・老猫は不可
3泊以上 × 推奨しない ペットシッターや預け先の確保が必要

3泊以上の旅行となれば、もはや猫だけでの留守番は現実的ではありません。水が足りなくなる、トイレが汚れる、エアコンが故障する——想定外のトラブルが起きたとき、誰も助けられない状況は避けるべきです。

預け先を探す困難さと費用負担

では、旅行の際に猫を預ければ問題は解決するのでしょうか。残念ながら、そう簡単な話ではありません。ペットホテルや動物病院、ペットシッターといった選択肢はあるものの、それぞれにハードルが存在します。

ペットホテルという選択肢の落とし穴

ペットホテルは一見便利に思えますが、猫にとっては見知らぬ環境での生活を強いられることになります。他の動物の鳴き声や匂い、慣れない人間の存在。これらすべてが強いストレス要因となるのです。

中には環境変化に適応できず、数日間ほとんど食事を取らない猫もいます。料金も決して安くなく、1泊あたり3000円から5000円程度が相場でしょう。1週間の旅行なら、それだけで2万円以上の出費となります。

ペットシッターのメリットとデメリット

  • メリット:猫が住み慣れた自宅で過ごせるため、環境変化によるストレスが最小限に抑えられます。食事やトイレの管理も普段通りに行えるでしょう。
  • デメリット:自宅の鍵を預けることへの不安、シッターとの相性、そして何より費用の高さが挙げられます。1回の訪問で3000円前後、1日2回なら6000円となり、長期旅行では大きな負担になります。

友人や家族に頼むという手もありますが、毎回お願いするわけにもいきません。猫の世話は想像以上に手間がかかるため、相手に負担をかけてしまうことへの罪悪感も生まれるでしょう。

旅行を諦める覚悟が必要な理由

結局のところ、猫を飼うということは、これまでのような自由な旅行スタイルを手放す決断なのです。「行きたいときに行きたい場所へ」という気ままさは、猫との生活と引き換えに失われます。

しかし、それは決して悲観すべきことではありません。

日常の中に見つける新しい幸せ

遠くへ出かけられない代わりに、私たちは日々の暮らしの中に小さな喜びを見つけるようになります。

朝日を浴びながら窓辺で丸くなる猫の姿、膝の上で心地よさそうに眠る温もり、仕事から帰宅したときの出迎えなどは旅先で得られる刺激とは別の、静かで深い充足感をもたらしてくれるのです。

旅行のある生活 猫のいる生活
非日常的な刺激と新鮮な体験 日常の中に溢れる小さな幸せと癒し
計画的な楽しみと期待感 予測不能な愛らしさと驚き
思い出として残る瞬間 毎日積み重なる穏やかな時間

旅行は確かに人生を豊かにしてくれますが、猫との暮らしもまた、別の形で私たちの心を満たしてくれます。どちらが良いという話ではなく、何を選ぶかという価値観の問題なのです。

それでも旅行したい人のための現実的な対策

とはいえ、完全に旅行を諦める必要はありません。工夫次第で、猫との生活と旅行を両立させる道も存在します。

短期旅行に特化したライフスタイル

1泊2日の旅行を年に数回楽しむというスタイルなら、比較的実現可能でしょう。事前に自動給餌器や見守りカメラを導入し、信頼できるペットシッターと契約しておけば、安心して外出できます。

ただし、これはあくまで「短期間」に限った話です。1週間以上の長期旅行は、現実的には難しいと考えておくべきでしょう。

  • 見守りカメラで外出先から様子を確認できる環境を整える
  • かかりつけの動物病院で預かりサービスがあるか事前に確認しておく
  • 複数のペットシッター業者に登録し、選択肢を増やしておく
  • 近隣に住む家族や友人と緊急時の協力体制を築いておく

猫を2匹以上飼っている場合、お互いが遊び相手になるため、飼い主不在のストレスが軽減されることもあります。ただし、多頭飼いには別の配慮が必要になるため、安易な選択は避けるべきです。

旅行の質を変える発想の転換

猫を飼い始めたら、旅行の捉え方そのものを変えてみるのも一つの方法です。遠方への長期旅行ではなく、近場での日帰り旅行や半日の小旅行に切り替えれば、猫に負担をかけずに気分転換できるでしょう。

車で1時間程度の温泉地、電車で行ける美術館、徒歩圏内の新しいカフェにも、まだ知らない魅力が隠れているかもしれません。

猫大切なのは、何を選び、何を大切にするか。その選択に後悔がなければ、それが最良の人生なのではないでしょうか。